エキサイトブログから完全移行に伴う記録

ブログ始めました。使い方がよく分かっていないので、間違いをしでかしてしまう前に適宜対応していきたいのですが、たぶんミスしてから気づくので、その都度直していこうと思います。
さて、ブログを始めた理由ですが、自分の言いたいことをばーーーー!と書きなぐるためです!ツイッターだとTLで長文呟きを流してしまうの、(既にやってしまっているのですが)、一応気が引けるため、ここでだらだら話していこうと思います。
友人たちには長文ラインを送り付け、犠牲者を出しまくっていたので、この場を借りて謝罪します(笑)
ツイ禁宣言をしたにも関わらず、こうしてアカウントを復活させるほどの衝撃をもたらしたきっかけとは、あさのあつこ完全読本です(いまさらですが、買いました)
まず、「おお!」と思ったのは、三浦さんとあさのさんの対談で、同性同士の関係が好き、友情や恋愛という枠に当てはまらない関係性を書きたいと話しているのを読んで、なるほどなあと思いました。
フォローしている方で、そういった名状しがたい関係に惹かれるという話を聞いていたので、そうかあ、作者の人が描きたいのはそういうことだったのかあと納得しました。
そして、私とは考えが違うなあという結論に達しました(笑)
私も、同性同士のお話しはとっても好きなんですが、同性同士でも、恋愛と友情の区別ははっきりしていて、その関係性に明確な名前を付けたいです。
だから、言葉にしないと互いに確かめ合うことのできない友達、恋人同士であるという確認はとても大事で、好きだなあと思います。
あさのさんの作品の中で好きだと思うのもいくつかあるのですが、(テレパシー少女蘭とか)欲求不満になってしまうのは、根本的な発想が異なるからなのかな、と思いました。
曖昧だけれども、確かに強い繋がりがある、バッテリーのキャラクターたちですが、最終的に私が落とし込みたい関係は恋愛か友情か家族か、名前のあるつながりなのかもしれないです。
まだまだ語りたいことはあるのですが、最初の投稿なのでここまでにしておきます。
最後に、瑞垣がその後どうなったか気になります。グレていないかな…(笑)。の回答が、私の心を打ちぬいて、今、むせび泣いています。あと、言葉にならない愛情という瑞垣俊二の心情への言及も、色々心臓に悪いです。あさの先生、有難うございます。

(2016.1.22)

 

前回、私は言葉にできない関係ではなく、はっきりと明確な言葉で表現できる関係性に惹かれると言いました。
そのことについて、暫く考えていたのですが、最近ようやくつかみかけてきたので、また独り言を書きたいと思います。
私にとって、自分が相手と結んでいる関係はこの言葉で表すことができる、という確信は大きな安心感を与えてくれます。
それは、私がいま生活している中で築かれている大学、バイト先、サークルなどの関係だけでなく、TwitterFacebookといったソーシャルネットワークにおいてもいうことができます。
しかし、その関係の名前はほとんどが私の認識のみで完結しているものばかりであり、相手に対して、私とあなたの関係はこうだよね?と確認し合ったことのある人はごくごく少数です。
さらに、その関係(例えば友人であるとか恋人であるとか)についての彼らなりの定義付け、認識の仕方、優先順位などは不透明です。
私自身、友人とカテゴリーしている人々それぞれへ寄せる信頼感だとか責任感、ここまでさらけ出せるか、約束できるか、許すことができるか、などというボーダーラインは日々過ごす中で刻々と変化しています。
一つの記号としての言葉を用いても、あまりにも不安定で曖昧です。
だからこそ、言葉を交わし、認識の違いを了解したうえでお互いが認める関係性というものにとても惹かれるのです。
一度喧嘩してしまえば壊れてしまうような、不安定で細いつながりを必死に手繰り寄せて生きている私のような人間には、言葉という証明ほど有難いものはありません。

ある言葉の位置づけは、その言葉を用いる人の数だけそれが内包する意味の範囲が無限に広がっていると思います。その複数の意味の存在を知り、認めたうえで、自分の価値観と照らし合わせた中で最も自分に合うと感じた中身を選択して、毎日会話や書き物等において言葉を用いています。
情報という可視化された変化することのない言葉の数々を目にして、自分の語彙として吸収した後、その言葉を説明する言葉を模索し、未知の説明内容に遭遇することに面白さを見出すことはあれど、知らないから、分からないから、関心がないから、などという理由で、命名することを放棄することはしたくありません。

私が瑞垣を筆頭にバッテリー3年生組(瑞垣、門脇、海音寺)に非常に固執するのに比べ、バッテリー1年生組(原田、永倉)にあまり言及しないのはここに理由があるのかもしれないと思いました。

私は、原田が永倉に対して友情を求めていないと明言したことにぎょっとしました。ではどんな関係を求めているのか。それは本当にキャッチャーとしての役割だけにとどめられているのか。
また、永倉は原田と自分たちの関係をはっきりさせることに興味があるのか。原田の内面を薄々察していながら、彼の自分に対する認識について話し合うことを望んでいるのか。
私の中で、この答えはどちらともノーです。
原田は、6巻にて”曖昧にできるなら、適当でいいなら、伝えなくて済むなら、口をつぐんでいればいい。ありきたりの言葉で足りる。しかし、そうはいかないのだ。言いたいことがある。聞いて欲しいと思う。だとしたら、どうすればいい。ちゃんと伝わる言葉を探すしかないじゃないか。”
しかし、反する永倉は、ラストイニングにて”楽しい?確かに違うな。楽しい、嬉しい、おもしろい。そんな心弾む感情と疎遠になって、久しい。(中略)これ以上の、これ以外の関わり方はなかったんだ。”
永倉のこの独白を読んで、彼は野球と原田を切り離すことなどできないと危惧しました。そして、もし原田と永倉が人間関係をはっきりさせようとするならば、それぞれがそれぞれに対しての欲求を満たすためにバッテリーを組んでいるという状態を解消しない限り、不可能に近いのではないかと思いました。
ラストイニングにて、瑞垣は原田と永倉の関係について、”友情とか愛情とか仲間意識とか畏怖とか尊敬とか、美しいだけに胡散臭い諸々の言葉ではどうにも片付かない関係…なのだろう、たぶん”と述べています。
彼らの今の関係に、言葉が介在することは無いように見えます。
二人は野球を通してしか関わることがないという現実を突きつけられた私は、結果、彼らについてあさの先生が描いた物語以上の何かを求めることはありませんでした。


門脇は、ラストイニングにて”瑞垣に伝えなければならないことは、千も万もある。全てを伝えられるとは思わないけれど、少しでも言葉にしてみよう。”と考えています。
かつて瑞垣への素直な称賛の言葉で無自覚に傷つけ、苦しめていた門脇ですが、瑞垣の本音を垣間見て、彼の心の悲鳴を聞くことができたのなら、またすれ違うことがあっても、何度でもやり直すことができるように、諦めることなく真摯に向き合ってほしいです。瑞垣の背中を見続けていた彼ならば、きっと、完全な理解には遠く及ばなくとも、一緒に居ることが苦痛にならない道を見つけることができると思います。
そもそも完全な理解など存在しないですね、捉えたと思っても、するりと抜け落ちてしまうばかり。勉強すればするほど、その奥深さに畏れ慄き、自分の無知さ加減に愕然とするのと似ている気がします。
それでも、思考を止めることなく、常に最善とは何かと考え続けていれば、心地よい距離感を見つけることができるのではないでしょうか。
瑞垣に関しては、ラストイニングで描かれている彼の心情が未来に対する微かな希望を見出しているようにみえ、彼のこの先の物語に、私は期待で胸がいっぱいです。
彼なりに自分の面白いと思ったものを追求して、かつてはくだらないと吐き捨てていた自分の人生に価値を見出してほしいです。
瑞垣も、永倉も、門脇がいなければ、野球がなければ、と、「もし」を考えては現状に頭を抱えていました。
結果として、瑞垣は門脇の隣にいることを辞める決断を下し、永倉は原田の傍にあることを選びました。
二人が置かれた状況は限りなく似通っていますが、ここに、決定的な違いがあると思います。
瑞垣は門脇と新たな関係を結ぶことができると信じています。
もう彼には自分の一部としての野球と、幼馴染である門脇とを混同することがないと思うからです。
永倉は、原田の一部としての野球に全力を挙げると決意しているように思います。だからこそ、原田と永倉の関係は異常にみえるのかもしれません。
私が二次創作に求めるのは、そうした異常性のあるリアリティではなく、私がいつも枯渇している、互いに存在価値を確信しあうことのできる関係性です。
原田と永倉を中心としたバッテリーのお話は勿論大好きです。何度も読み返しています、けれど、それが私がいまツイッターで騒いでいるような妄想をまき散らす方向にいかないのは、原田と永倉の二人の関係の発展に私自身が限界を感じているからです。

海音寺はというと、6巻にて”「おもしろいで。おまえ、ほんまいろんなこと知っとるし、おれの考えてたのと、まったくちがうとこから意見とかしてくれるし、あーそうなんじゃって、なんつーか目からウロコ…あーそういうんとちがうな。まっ新鮮つーか、うまく言えんけど、おもしろい」””「わかったよ。でも、久しぶりに話してなんかすかっとした。うん、また、電話するな。携帯、電源入れとけよ」”
私にとって、話していて面白いという言葉以上の賛辞はありません。それは、私が言われて嬉しい言葉でもあり、私が話していて相手に贈る言葉の中でも最も好意を示すことでもあります。
瑞垣は、”解せないことは不安だった””理解していない。深く知ろうとしていない。信じ切っていない。”と、自分自身に振り回され、混乱しますが、そんな彼が強く拒絶することのない海音寺の存在こそ、私にとって掴みどころのない瑞垣と確固とした関係を築くことのできる希望として映るのだと思います。

真面目な口調でだらだらとこぼしましたが、私の好きな組み合わせについて語っただけでした(笑)
論理的ではないのは重々承知しています…
また振り返ってみて、自分の考えの変わりように驚いてみたいと思います。
(2016.1.25)

 


はじめて書いた辻犬です。内容は成人向けとなっています。
ホラーを意識して書いています。
いつも楽しいお話をしてくださる花梨さんへ。






傘がない

きっかけはなんて事はない、金曜日の放課後で、翌日の任務に関する通達を二人で確認し合っていた時だった。

外はしとしとと雨が降っている。朝方母親に傘を持たされた辻は、下駄箱の傘立てにさした真っ黒のそれを思い返しつつ、ぼんやりしながら窓の外の景色を眺めていた。
空気は湿り気を帯び、梅雨の気配が濃厚に漂う。藍色の空が、酉の刻にさしかかろうとしているのを示していた。

簡素なメールを読み上げる犬飼に、相槌を返していると、突然、

辻ちゃんこの後用事ある?と問われた。

咄嗟に返事が出来ずに、犬飼の顔をしげしげと見入った。

あ、やっぱ無理?という言葉を受けてようやく、いいえ、ありません。と答えた辻に対し、犬飼は、そう、じゃあおれの家来ない。と誘った。



犬飼の生誕日の翌日に鳩原が失踪し、酷く動揺したボーダー上層部に対し、残された二宮隊は淡々と下される指示に従っていた。

辻は勿論混乱していたが、背中を追うべき先輩と同僚が何でもないかのように振舞う姿を目にして、感覚が麻痺した。

確かに仲間は1人減った。B級に降格もした。だがそれは、二宮隊が弱くなった証明ではない。

隊長二宮を筆頭に、以前と変わらず任務に赴き、着実にこなすメンバーを見て、辻は自身を奮い立たせた。

そんな折に、犬飼から持ちかけられた提案は、辻にとって当然都合の悪いものではなく、何の疑いもなく受け入れた。

この時点では、辻が犬飼に向ける感情は尊敬する先輩、以外の何物でもなかった。

恋愛に対して奥手であると自認する辻は、自分が劣情をそそられることがあるとはつゆほど予想していなかった。

同級生に性的な話題を振られると困惑し、気がおけない仲間からは、辻だから仕方ない、と嘲笑を甘んじて受けていた。

見た目の通り、頗る育ちの良い御坊ちゃまなのだ。

いつまでも子どものように、うぶで、愛情に飢えている辻が好むのは、たっぷりのカスタードが入ったシュークリーム、こってりと甘いバターが溶けこんだどら焼きである。

想像しただけで胃がもたれる。とは、顔を合わしてからまだ日が浅い頃、それを耳にした犬飼が苦笑しながら溢した言葉だ。

犬飼が好むのは、果汁が滴り落ちるような瑞々しいぶどう、それと、ケチャップソースがふんだんにかかったホットドッグだ。

先輩も俺と対して変わらないじゃないですか、と文句を言うと、辻くんとは全然違うよ、と犬飼はにやにやしながら突き返した。

月日が経ち、辻くん、が、辻ちゃん、という愛称に変わるまで、辻が犬飼に許す領域は格段に広がっていた。










傘を忘れたという犬飼のために、辻の傘を共有しながら犬飼のアパートまで並んで歩いた。

見慣れているはずの街が、隣を歩く人のお蔭で、妙によそよそしく見えた。道を何度か曲がった先、漸く見えた薄水色の外観をしたアパートを指差し、あれがおれの部屋だよ、と、秘密を打ち明けるかのような犬飼の囁きで、体がふるりと震えた。

学生鞄から鍵を取り出し、さっさと部屋に入った犬飼は、てきぱきと部屋着に着替えながら、辻ちゃんはシュークリームが好きなンだよね、と冷蔵庫からそれを取り出し、コタツのテーブル上に載せた。鍋ができるまでそれでも食べていて、と告げた。

のち、フンフンと上機嫌で鼻歌を歌いながら次々と台所にレトルト食品を並べていく犬飼に、手伝います、と辻は声をかけたが、いいからお客さんは黙ってなさい、とわざとらしい高圧的な口調で命令されたので、大人しくコタツに入り、渡されたシュークリームの袋を開けた。

咀嚼しながら、犬飼は自分が家に来ると了承する前からシュークリームを用意していたのだと漸く気づいて、

先輩、どうしてシュークリームがあるんですか、と犬飼に問うと、

きっと辻ちゃんは来るだろうなって思っていたから、と曖昧な返事が来た。

何も疑問に思うことなく、そういうものか、と辻は納得した。




犬飼は奔放だった。心を閉じ、引き籠っていた辻の壁という壁を難なく打ち壊した。

厳しい家庭教育によるものなのか、辻は異性との接触に不慣れなままで、たちの悪い女は揶揄し、それ以外は気の毒そうに同情した後、そっと距離を置く。
人との関わりをますます敬遠した辻は、ふと辺りを見渡すと、誰もいなくなっていた。

辻は白黒の世界の住人だった。

だが犬飼は、辻の強迫観念を取り除き、憂いを解こうと手を差し伸べた。女を異様に畏怖する辻を、そのまま肯定し、あまつさえその敵意を膨張させるかのごとく、存在の正当性を否定した。

半信半疑だった辻はあっという間にのめり込んだ。今まで、その深い断絶により、世間と迎合することをすっかり放棄していたはずが、まるでずっと昔から居たと錯覚させるほど、混沌たる灰色の世界に溶け込んだ。辻の真っ暗な視界に犬飼という一筋の光が差し、辻は水を得た魚のように生き生きと輝き始めた。

その中性的な顔立ちが男であるという意識を紛らせ、耳朶に息とともに吹き込まれる甘言は、辻をうっとりと酔わせる。鮮やかな人心掌握術には誰もが舌を捲く。

情欲はとどまることを知らない。犬飼の躰は鈴蘭の香りが匂い立つようで、微笑みは一切の思考を奪い、辻はただただその姿に熱心に見惚れる。

寝所をともにしたのはその日の晩だった。普段家で夕食を食べていた辻は、晩をボーダーの先輩と過ごすと家族に連絡をいれた。友人付き合いが豊かであるとはお世辞にも言えない辻の親は、はじめ不審に思ったが、ボーダーと聞いて安心した。

寧ろ、己を磨こうとする向上心がある、と喜んだ。場所は告げなかった。本部であるかどうかなど些細な問題だった。

犬飼はボーダー提携の大学に進学することが決まっていたため、高三になってから実家を出て大学近辺のアパートに一人暮らしをしていた、ただそれだけのことだ。










簡素な食事で胃が満ち足りたあと、犬飼が辻に開く躰はこの上なく魅力的だった。

辻は何も激しい性衝動を持て余していた訳ではない。

寧ろ禁欲的な生活に慣れ親しんでいたために、激しく相手を渇望する気持ちをもてあまし、ひどく混乱状態に陥っていた。

辻がシャワーを浴びた後、入れ違いに浴室に入った犬飼の気配に落ち着かないまま、目線をきょろきょろと彷徨わせていると、あっという間に入浴を終えた犬飼に腕を掴まれ、そのまま覚束ない足取りで寝室に導かれた。

意識がはっきりしないまま、ふらふらと借り物のスエットを脱いだ辻の熱い視線を感じながら、犬飼も惜しげもなくその白い裸体を眼前に晒した。しっとりと吸い付くような水気を含む肌と、ソープの華やかな香りを身に纏った艶かしい湯上りの姿は目の毒だが、決して視線をそらすことなく、辻はおそるおそる犬飼との距離を縮めた。

あっさりと差し出されたそれを目にして、吐く息が不規則になり、そろそろと指先を肩に這わしたまま、犬飼の真意を探ろうと辻は相手の目を覗き込んだ。

しかし、その後、辻が行動を起こすことはなく、先輩。と僅かに開いた唇から漏れる声は震えていた。顔面蒼白で、彼が雄であることを示すそれも、とっくに萎えていた。





自分がどうしたいのか、何を求めているのか分からずに焦燥する辻の手を、犬飼はそっとその陶磁器のような腹に導き、優しく撫でるようにと教えた。

体温を感じさせない、固く滑らかな腹は、辻の極度の緊張によって、いつの間にか身体から滲み出た脂汗を受け入れ、なおかつべとつきのない手触りを残していた。

犬飼は辻の心の声を察知する能力に優れていた。

硬直していた辻の体は抱きしめられた瞬間、柔らかく弛緩し、夜は、なにも患うことなく深い眠りに誘われた。











犬飼宅への訪問が片手で数えるには足りなくなるころ、辻は自分より先に寝入った犬飼の顔を見て、腰部に大きな熱を感じた。

これまでおざなりに済ませ、ろくに慰めることを知らなかった辻が、初めてはっきりと自覚した。

静かに瞼が閉じられた彼の顔を、瞬きもせずに凝視しながら、下着を脱いで取り出したペニスは、やや興奮した様子でゆるく立ち上がっていた。浅ましい自分の欲に羞恥心を掻き立てられつつ、そっと指先を先端に添える。




ゆっくりとなぞっていくうちに抑えていた息がわずかに乱れ、彼に気づかれるのではないかという懸念に駆られた。

もう一度顔を上げると、興味深げにこちらを見ていた犬飼と目が合った。

ガンガンと耳鳴りがする。頭にガラスが突き刺さったかのように鋭い痛みを感じた。

からからに乾いた喉は声を発することを拒み、ごくりと生唾を飲み込んだ辻は、何を言われるのか恐ろしくて耳を塞いでいたかった。

だが犬飼は、罵ることなく、目尻を赤く染めて、おれが触ろうか、と申し出た。夢じゃないかと思った。










犬飼の白く細長い指が自分のそれに絡んでいる光景は頭にくっきりと刻まれ、思い浮かべるだけで勃起した。

脳裏に駆け巡るあられのない姿は、まさに辻だけの女だった。辻のそれをやわやわと揉みしだきつつ口角を上げる表情を目にした瞬間、辻は絶頂に達する。

犬飼は無邪気に喜んだ。緊張したままの、弓なりのペニスを、その輪郭を確かめるかのように愛撫したのち、辻の腰に両手を回して強張った身体を引き寄せた。

自分ばかりが気持ちよくなって気が引けている、と伝えると、らしくもない遠慮はするンじゃない、と優しく犬飼は叱責した。

辻ちゃんが気持ちいいと、おれも嬉しいンだよ、と嘘か本当かわからないことを言って惑わす。それでも、縋り付くことを赦す犬飼に、辻の心は完全に掌握されていた。









あくる日の要求は犬飼にワンピースを着せることだった。

女装をして辻ちゃんとシたら、さぞかし楽しいだろうなァ、と零した犬飼の呟きを、目敏い辻が聞き逃すことはない。

自分の意思を汲み取ってくれているとすっかり信じきっている辻は、今度は犬飼先輩のワンピース姿を見たいです、と至極真剣な顔つきで願い出た。

わざわざ実家から姉のおさがりを持ち出して、辻の目の前で着替える犬飼は、辻の注意の一切が自分に注がれているためか、肌が粟立つのを覚えた。射抜くような鋭い眼差しに、被食者のような気分を味わう。

だが犬飼は、自分が甘いだけの人間ではないことを知っている。こんなに焦がれている辻に、いっそ憐憫の情すらもよおした。

憐れみをかけられる存在はかわいらしい。いつでも圧し折ることができるような、その精神の脆弱さにどうしようもなく庇護心と加虐心をそそられる

女性に対する耐性をつけるため、などと体裁を整えることは、最早犬飼に盲従する辻には不必要だ。

犬飼は、辻の可哀想なトラウマを払拭するためではなく、辻と遊ぶために思いつきを実行しているだけである。

しかし、ありとあらゆる行動に意味を見出し、自分にとって都合の良い解釈をする辻は十分に満たされていた。

ワンピースは、さらさらと流れるような薄い布地で、裾はふんわりとレース状になっている。つるつると表面をなめらかに滑り落ち、心地よさだけを残す桃色のスカートに、夢中になって頬ずりする辻は傍目から見れば滑稽極まりない。だが、その歪さを指摘するものは何一つ無く、犬飼はさぞ愛おしげに辻の艶々と指通りの良い黒髪に手を差し入れ、ゆっくりとかき混ぜるように撫でさすった。

甘ったるい香りを胸いっぱい吸い込み、スカートの中を割って入りたい衝動を必死で抑え、辻は、その美しい鼻梁を太股に押し付けた。

見かねた犬飼は、裾をそっと持ち上げ、内部の入り口を指し示す。

辻を止める人は何処にもいない。堪えた甲斐も無く、欲望のままに犬飼へ挑む辻は双瞳を爛々と光らせ、性急に組み敷いた身体に跨った。辻は服を胸のところまでたくし上げ、腹部に顔をすり寄せては満足げに溜め息をついた。

カラスのように黒々と濡れた瞳がうつすのは、辻の下で四肢を投げ出す犬飼で、全身の筋肉が小刻みに揺れるのに興奮した。総てを味わい尽くそうと身体を押し倒し、犬飼の焦げ茶の睫毛をぺろりと舐めた。ワンピースはとっくに剥ぎ取られ、意味をなさない布切れとなり、床に投げ捨てられていた。
臍、脇腹、鎖骨、首筋、耳朶と順々に接吻し、乳首を口に含んで舐め回す際にはさらさらとした辻の髪が犬飼の身体をくすぐった。

さして変わらない体格のはずなのに、辻が犬飼を凌駕しているように見えるのは、人目を気にして鬱々としていたあの頃の面影は欠片もなく、代わりに、自信に満ち溢れ、犬飼を守護する使命に燃える、強靭な精神を支柱とする男が姿を現したからである。

初めて出会った頃には全く予期していなかった、辻の目を見張るような変化に、犬飼は危機感を覚えた。辻が脅威になり得るとは到底思わなかったが、それでも牽制は必要だと、犬飼は躾と題して辻を諭すと決めた。

だが既にとき遅く、辻は犬飼に反論する手立てを用意していた。忠実な僕としての立場を覆し、犬飼の為に、という文句を盾に、犬飼のあらゆる策略はやすやすと突破され、もはや残された道は辻へ屈服することだけだった。




辻ちゃん、今日はもう遅いから早く家に帰って寝な」

「先輩のことが心配で夜もおちおち眠れません。睡眠不足になって、日中はぼうっとしてしまいます。どうかあなたのそばにいさせてください。必ずあなたを守り抜きます。誓って、誰にも手出しさせません」







何度も繰り返される応酬に、犬飼は辟易した。単純で楽しい玩具だと気に入っていたはずが、もっともつまらない人間へと変貌を遂げた。

つまり、犬飼に唯々諾々と従う、素直で単純な操り人形と化した辻を期待していたはずが、逆に、口煩く己の意思を主張する青年へと成長してしまった。

乳臭く、いつまでも甘える赤子でいたなら、もっと可愛がってあげたのに、と肩を落としつつ、辻を殺そうと犬飼は思った。

面倒ごとは嫌いだった。自分の行動を制限するような依存は、邪魔だった。






結果、死んだのは犬飼だった。

犬飼の狂気は、辻に伝染した。

いつものように犬飼の部屋で戯れたあと、辻がシャワーを浴びているうちに、よく研がれた包丁を手に、ニコニコと辻を待ちわびていた犬飼は、辻の奇襲に遭い、呆気なく死んだ。殺気に過敏に反応するようになっていた辻は、犬飼を上回る利口さと狡猾さを身につけ、冷静に対処する術を知っていた。

辻が凶器として用いたのは、玄関に置きざりにしていた、黒い大きな傘だった。

段々と冷たくなっていく死体を前にして、現実が信じられない辻は、殺した犬飼は偽物であると断定し、大雨の中部屋を一目散に飛び出した。

雨に打たれながら、悲しみに暮れた辻は、舌を噛み切って自殺した。

とどめを刺す引き金となったのは、犬飼が息を引き取る直前に漏らした一言だった。

新之助

その瞬間、母の顔が脳裏をよぎり、辻の理性は弾け飛んだ。



それ以降、犬飼の住んでいたアパートは、もぬけの殻となり、誰も寄り付かない廃墟と化した。

何度も取り壊しの計画が立ったが、その度に作業員を襲う奇怪現象に恐れをなして、放置する次第となった。

真偽は不明だが、丑の刻を過ぎた頃、コロコロと笑い声が響く部屋があるという。

そして、その声を追って夜な夜な彷徨する男の影が、月光の下に浮かび上がると噂された。 

(2016.1.28)